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ORICON NEWS
my job , my heart 「心で切るシャッター」
自分の心が動いた瞬間が、人の心を動かす仕事になっていく
「写真を撮る時に一番大切なのはメンタルでしょうか。カメラの進化(デジタル化)でフィルムチェンジが要らなくなったり高感度(ISO)に強くなったり、撮影の幅はどんどん広がっています。情報的な写真はどんどんオートマチックになっていくでしょうし、究極的にはロボットが撮影する時代が来ると思います。でもあまり心配はしてません。
シャッターを押す瞬間は僕の心が動いた時ですしそれがいつの瞬間に訪れるかは自分でもわからないので(笑)。だから人を撮っていても、その時の自分の心理が写ります。相手を撮っているようで自分(と相手との関係性)を撮っているというか。頭はなるべく冷静にしつつ、自分の心のドキドキやワクワクには素直にシャッターを切るようにしています。どんな状況であろうと、そうやって自分自身が楽しく撮影できるようなメンタルにいられるように常に心がけています」
人の想いを大切に撮影するRYUGO氏。それを象徴する思い出深い出来事が今年あったという。3年ぶりのリリースとなる山下達郎のシングル「CHEER UP! THE SUMMER」のアーティスト写真に採用された。
仕事人に5つの質問
A.「心を戻す仕事」
「撮影では毎回、大袈裟でもなく遺影を撮るつもりで臨んでいます。写真はその人がそこにいたっていう事実でしかありませんが、人間はいつ死ぬか分かりませんし。時間は進んでいくもの、生きて(変化して)いるものを撮っている以上、「10年前はこんな感じだった」って後から意味が出てくることもあります。写真は瞬間を永遠にすることができる。どれだけ時が経っても一目でその時代やその瞬間に連れて行ってくれる存在だと思っています。子供の写真で例えるなら可愛く笑っている写真を撮りがちですが、ひょっとしたら泣いている写真の方が、大変だった子育て時代の記憶を呼び起こすスイッチになるかも知れません。いかに、その時へ“心”を戻してくれる写真を撮っているかだと思っています」
Q.フォトグラファーの仕事のいいところ・悪いところ
GOOD!
「自由なこと」
「何にも縛られていないことですかね。スケジュールは全部自分で管理できますし。用事と仕事がバッティングしても、自分にとって大切な方を選べます。通勤電車に乗らなくていい、ネクタイを締めなくていい、ということも僕にとっては魅力です(笑)」
BAD
「リスクがある」
「技術職であり、体を使う仕事。いろいろなリスクが多いと思います。フリーランスなので収入が不安定であること、体が資本だからケガをするような遊びはあんまりやらなくなりましたし、健康には気を付けています」
BAD
「行かないと仕事にならないこと」
「家や事務所でできる仕事じゃない。どんな撮影でも、そこに自分が行かないといけない。本当はもっと田舎に住みたいんですが(笑)。いつか北海道とか住みたいなぁ」
Q.フォトグラファーに必要な能力は?
A.「想像を超えたい気持ち」
「僕は自分自身のセンスや才能は信じていません。才能とかよくわかりません(笑)そういうのがあったらあったで良いのかも知れませんが、それよりも大切なのは、“+α”を求める気持ちじゃないかな。想像を超える、超えたいという気持ちがあるかどうか。結局は写真が好きかどうかにつながるんですが、「もっとこうして撮ってみたい、もっと撮らせてよ!」って気持ちは必要かなと思います。いろいろな制約がある中でもそのせいにせずにベストを探求するとか、そういう自分が撮る写真に対する愛情みたいな気持ちじゃないですかね」
Q.この仕事やっていなかったら何になっていたか
A.「バンド組んで音楽やっていたい(笑)」
Q.相棒アイテムは?
A.「コンタックスのS2-B(85ミリの単焦点レンズ)」
今はテクニックを学ぶ期間は過ぎて、一つ一つの仕事で“自分が撮る意味”を考えています。なんとなく、年を重ねた自分にしか撮れない写真がきっとあるんだろうなって思います。60歳、80歳になった自分がどんな写真を撮っているのかとても楽しみです」
(取材・文 / 加藤由盛)
(写真 / 小林綾子)