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(更新: ORICON NEWS

my job , my heart 「感情を操る仕掛け人」

「楽曲=アーティストの子ども」を世の中へ伝える責任感

これまでの13年間の宣伝マン人生において、印象的だった作品を聞いてみた。2011年当時のあの空気感、人々の顔…今でもさまざまなものを想起する。彼が挙げた作品は、日本が傷ついた時期にリリースされた1枚のシングルだった。

「サカナクションの『ルーキー』という曲です。この曲は2011年の震災の翌週がリリース日でした。正直言うとメディアも自粛ムードで、たくさんあったラジオの出演予定もほとんどなくなってしまいました。楽曲を作っているミュージシャンとしては、そういう状況があるにせよ、楽曲は自分たちが生み出した子どものようなものなんですよね。やれる限りのことは一生懸命やったつもりっだったけれど、ちゃんと伝えきれたのかどうか不安がやはりあって。そもそも世間には新曲を聴きたいって思う人がどれだけいるのか、ということも考えました。

でもその後のツアーで、ライブスタッフが演出に本当にこだわってくれて、とてもライブが盛り上がる曲に成長していったんです。レーザーを使用したいわゆるサカナクションを象徴したような演出のライブを作り上げてくれて。この曲でお客さんが一番盛り上がっているのを見ると、宣伝担当の職務として自分たちの成し遂げたかった認知率に持っていくことは震災という状況下でできなかったけれど、チームワークで曲が伝わっていくことは素晴らしいな、と感じました。楽曲に対していろいろな人がさまざまなアプローチで塩コショウを振っていって、お客さんにどう伝えていくかをそれぞれの料理人が考えている。自分だけでなくいろんな人と一緒にその“料理”をできることが幸せなことだと思いました。」

ひとりひとりの人間性を知ることができる面白さ

この業界は転職が多いそう。でも魅力を感じて続けるその理由とは。

「僕は一度そのアーティストを担当すると、その担当期間が長くなる傾向があって。サカナクションは2009年から7年。サンボマスターも2011年から5年。RED SPIDERも足掛けでいうと10年くらいやっていて(転職の)機を逃しましたね(笑)。だいたい1回転職するとみんな転職のハードルが低くなる気がします。僕は1回もビクターから出てないからすごく転職のハードルが自分の心の中で壁が高くなっていて。それだけの問題かなって。いろんなところを見たほうが絶対いいんでしょうけれど。担当が長くなっている理由は、アーティストそれぞれ生まれも育ちも考え方も違うので、少し会っただけだとわからない本質があると思うのです。仕事をしていくうちにアーティストだけでなくマネージャーなどの周りのスタッフも含め、その人の頑固な一面やどうしても譲れない人間的な本質が見えてくるとだんだん面白くなってきます。1年以上やるとやっと分かっていくものがたくさんありますね」

“ここにいること”を選び続けているのだ、と感じた。ひとつひとつの出会いを大事にすることは、人間の面白みを見つけ続けることができるということ。まさに人間が好き、という人にはぴったりな職業な気がする。

今の自分があるのは、今はいないあの人の姿

人との出会いに溢れたA&Rの仕事において、印象深い出会い、大きな影響を与えた人物がいたそう。

「僕が入社した頃は、ビクターにはエッジの効いたアーティストが多く、1990年代後半って音楽シーンが新たに変わっている時代だったんですよね。僕はDragon AshとTHE MAD CAPSULE MARKETSの2つがすごく好きで。そういうかっこいいバンドをやっているビクターにあこがれて入ったっていうのはありました。純粋に時代を変えようとしているなって感じていました。THE MAD CAPSULE MARKETSをデビューから途中まで、Dragon Ashをデビューからずっと担当していたディレクターがいて、本人には言わなかったですけれど、その人にあこがれていました。でも仕事をしてみると、ディレクターなのにお菓子ばかり食べてギャグしか言わなくて(笑)。それなのにミュージシャンからすごく信頼されていて。

その人が2012年に亡くなってしまって…。その人と2009年からサカナクションをディレクターと宣伝という立場で一緒に担当しました。もうひとつ今担当しているRED SPIDERもその人が制作で僕が宣伝で。制作と宣伝ってチームみたいなもので、あこがれの人とタッグを組んで仕事ができるのは自分の中ですごく幸せなことでした。その人は本当にすべての行動がミュージシャンオリエンテッドというか。そのミュージシャンが良いパフォーマンスができ、なるべく気持ちよくできるように、っていうのを常に一番に考えていながら、そう見えないようにやっているっていうのがすごかった。ギャグを言うのもスタジオの空気を軽くしてみんなが発言しやすいようにするためだったし、気遣いが半端ないなって。仕事をしていないように見えて、メンバーが気付くより先に機材を用意していたりと、プロの仕事の手本みたいな人でした。この人と仕事できて、この会社に入ってよかったなあってずっと思っていましたね」

記憶に残る仕事人生における嬉しかったこと

これまでの仕事人生の中で、いちばん嬉しかったことを問いかけてみた。後述にある今年いちばん嬉しかったことにも共通するが、山上氏の喜びは、メンバーや周囲のスタッフの喜びが自らの喜びに変わる。

「今まででいちばん嬉しかったことは、初めてオリコンランキング1位を取れたときです。作品は、サカナクションのアルバム『sakanaction』でした。気恥ずかしくてあまり言ってはいなかったのですが、オリコン1位を1個の目標にしようとはしていたので。ちょうど1位が分かった日がツアーのリハーサルの日で、ツアースタッフ、メンバー、マネジメントスタッフみんなで喜び合えたのが嬉しかったですね。普段あまり感情を表に出さないメンバーが喜んでいたのも印象的で、嬉しさが倍増しました。」

「インタビュー慣れしていなくてすみません」と初めは恐縮していた山上氏がすらすらと語るのは、やはり自分自身のことではなく、愛をかけるアーティストの話。今年いちばん嬉しかったことを問うと、笑顔で語ってくれた。

「サカナクションの日本アカデミー賞受賞です。授賞式の当日はあいにくバンドは北海道でライブがあり、僕だけ会場に残り瞬間を待ちました。電話口にスタンバイし、そこから北海道の楽屋にいるメンバーにつなぐっていうことになり。「受賞した場合は大丈夫ですが、取れなかった場合に山口くんに報告してください」と、一番嫌な役回りを任されて…(笑)。発表の瞬間は会場では静かにしてくださいって言われていたのに、「よっしゃー!!」って大声ではしゃいでしまい(笑)。その映画を作る際に、主題歌がなかなかできなくて、半年以上納期をずらしてもらって、監督や東宝の皆さん、映画制作スタッフの皆さんにすごく迷惑をかけてしまったという思いもあったのでいっそう嬉しかった。でも受賞が決まったときにみなさんが抱きついて喜んでくれて、すごく迷惑をかけた分嬉しかったですね。しかし我ながら、サカナクションの話ばっかりですね。(笑)担当した期間が一番長い分、思い出も多いってことなんですかね。サンボやRED SPIDERのジャーマネが読まないことを祈ります。(笑)」

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