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自転車で冒険に出よう。キャンプツーリング紀行 inアラスカ【Part2 パークス・ハイウェイ北上編】
原野の中を一本の細い線となってまっすぐ延びる道を行く。
野生動物の存在を身近に感じるヒリヒリとした緊張感の中で、与えられた自由と開放感。
時速20km。夏のアラスカを自転車で旅する。
【Part1出発編】はこちら
和田義弥(わだ・よしひろ)
旅やアウトドアなどのジャンルを中心に記事を執筆するフリーライター。これまで自転車でアラスカやフィリピンを、オートバイで世界一周をキャンプツーリングした経験を持つ。現在は茨城県筑波山麓の古民家で田舎暮らしを実践中。著書に『キャンプの基本がすべてわかる本』(エイ出版社)などがある。
01 ツーリング中の食事
旅の出発は、新しい世界への不安と期待でちょっとドキドキするものだが、自ら体を動かし、しばらく時間が経つと、その緊張も解けていく。交通量の激しい都市を抜け、少しほっとすると腹が減った。
1号線と3号線の分岐点になっている小さな町の公園で最初の休憩。出発のときに降っていた雨はすでに上がっていた。
ツーリング中のランチは大抵こんなものだ。ゆっくり料理などしていられないし、食堂などがあちらこちらにあるわけでもない。数十キロごとに小さな集落やロードハウス(ガソリンスタンド)がポツンとあるくらいなのだ。
ただそれも地図に記されているからと期待して行ってはいけない。すでにゴーストタウンになっていったり、店がつぶれていたりということも少なくないのである。
02 時速20キロ。60〜70%の力で走り続ける
夏のアラスカは深夜を過ぎても暗くならない。白夜なのだ。太陽は地平線に浅く沈むが、西から東へ転がるように動き、空はいつまでたってもぼんやり明るいままである。
キャンプのときは面倒くさい料理はしない。腹が満たされればそれだけで満足できる。うまいメシは町に着いたときにレストランで食べればいい。
腹がいっぱいになったら、あとはぐっすり眠って体力を回復することだ。
町を離れると、道は一本の細い線となって原野の中をまっすぐ貫いているだけである。視界には広い空と深い森が広がり、ほかに目を見張るものは何もない。
フロントバッグに入れておいたドライフルーツを行動食として口に含みながらペダルを回し続ける。そうやってエネルギーを補給しつつ、燃やし続けていかないと足が止まってしまうのだ。時速20km。60〜70%の力でリズムよくペダルを回し、疲労を溜めないように走ることを心がける。
その日、キャンプ地を出発して30kmほど行ったところで、不意に森の中からバキバキと連続して木の枝が折れる音がした。
何か大きな動物がいる。ペダルを回す足が止まり、緊張が走った。
クマか!? と警戒した瞬間、森から現れたのはムースだ。体重500kgにもなるウマのように大きなヘラジカである。
10mほど離れていたが、ムースはこちらを気にすることもなく、道路を横切ってまた森の中へと消えていった。